鉄学概論 第19回~第21回
2007年から2014年まで皆様にお届けしたNYKNewsから、ご好評いただいたコラム溢水口の連載”鉄学概論”をご紹介いたします。
鉄学概論 第19回:人を拒む駅
ついにこの時が来た。211系が宇都宮線及び内房・外房線から全廃となり、JR長野支社管内へ移管される。すなわち、115系信州色全廃、ロングシート化が始まる。
旅行はただの通勤となる…。
NYKNews Vol.36(2013年3月掲載) 写真:115系信州色-姨捨駅
駅は人に利用されてこそ意味をなす場所。
しかし利用されるのを拒むちょっと不可思議な駅がある。
東成田駅。京成電鉄・芝山鉄道にある地下駅である。2面4線※1あるが、ダイヤ運行上は1面2線しか使用されず、もう1面は留置線扱いとなっている。閉鎖された暗いホームに目をこらすと旧式の駅名票がある。そこには、「なりたくうこう」の文字が…。
そう、ここは元、成田空港駅。1991年まで京成のターミナル駅だったのである。
ホームに降りると人の姿もなく、薄暗く、都心の駅には当然ある設備もなく古い長イスが数箇所あるのみ。発車案内や接近放送もない。
階段を上がると、過去の栄華を思わせる広々としたコンコースに出るが、スペースの半分は壁で仕切られており、暗い中に使われなくなったレストランや有人改札などがそのままになっている。1991年で時が止まっているようだ。
コンコースから約500m離れた空港第2ビルまでの連絡通路が無機質で長くて不気味。
まるで廃墟である。
また、駅構内には「…用事のない方は、なるべく他の駅をご利用ください…」などという、「極力来ないでくれ!」と受け取れる内容の注意書きまである。
この駅には京成上野から「スカイライナー」も乗り入れていたが、駅とターミナルビルがかなり離れていたため、有料の連絡バスへ乗り継がなくてはならなかった。そのため、利用者からは「世界一不便な空港の世界一不便な空港アクセス」と酷評されていた。
もちろん京成はターミナルビル構内への直結を望んでいたが、当時国鉄は「成田新幹線計画※2」を進めており、直結はかなわなかった。
しかし、成田新幹線は沿線自治体の反対と、国鉄民営化により完全白紙となる。その後、空いたスペースに在来線を直結させる計画が浮上、JRと京成は線路を分け合うことで合意し、現在の成田空港駅が誕生した。成田?東成田間は東成田線として完全分離。ターミナル駅としての機能を失ったそれまでの成田空港駅は、東成田駅と改名された。
こうして国際空港の真ん中に秘境駅(いや廃墟駅か)が誕生したのである。
成田空港に行く機会があれば是非、寄り道して見ておきたい。しかし警備は厳しい上、陰気くさい。長居は無用である。(A)
※1 「面」はホーム数、「線」は線路数を表す。
※2 東京-成田空港間で計画。東京駅の京葉線ホームがやたらと長いのは、成田新幹線用に設計されたため。
鉄学概論 第20回:京急―鉄道事故復旧訓練 緊急レポート
NYKNews Vol.40(2013年11月掲載) 写真:上から順に 写真① 写真② 写真③
JR北海道は相次ぐ車両事故を受けて、特急や快速エアポートの最高速度を10km落とし、車両メンテナンスの時間をとる為、運行本数も従来のダイヤより減らすダイヤ改正を一一月に行うことになった。事故の種別は数多くあるが、いずれにしても早期の復旧が必要不可欠である。
さて、鉄道事故の復旧作業はどの様に行われているのか。去る10月10日、京急で公開された「鉄道事故復旧訓練」を見学してきた。
京急では毎年、「重大事故発生における併発事故の防止と早期復旧」を目的に、実際の事故を想定した訓練を行っている。今回は「作動中の踏切内に進入した自動車と列車が衝突し脱線、線路・電気設備が損壊」という設定。事故状況を京急敷地内にセッティングし、京急社員だけでなく警察・消防局の関係各機関も参加する合同訓練となっている。
まずは、車内の負傷者搬送から乗客の避難誘導を行い、警察・消防と連携しながら自動車内に取り残された負傷者を救助する。その後保線区係員が現場に駆けつけ、線路の復旧作業に取りかかる。
乗客の避難誘導時には、ロングシートの座席を外し、それを非常用滑り台に変えて脱出させる場面があった(写真①)。日頃何気なく座っている椅子が避難誘導の道具として使われるのには驚いた。「フカフカで座り心地がいい」とか「ベニヤみたいで痔になりそう」とか、そんな些事にこだわっていてはいけない。
乗客・負傷者を事故現場から避難誘導した後、自動車排除・車両脱線復旧作業・線路内の破損復旧作業等へ入っていく。社員達の緊張した顔が印象的で、手際よくちょう架線の復旧が行われて行く(写真②)。リーダー格の作業員が「声出していけよー」と指示を出す。
復旧各作業の中でも一番難しいのは、脱線復旧であると説明がある。脱線した先頭車両の前方にジャッキを挿入して迫り上げるように持ち上げてレール上に載せなおす(写真③)。ジャッキ操作・指令・ジャッキ確認、3つの班に分かれて、「山側※ジャッキ・海側ジャッキ動作開始!」(ジャッキと車体を合せる)「山海ジャッキ上昇開始!」(車体が持ち上がる)「止め!山側へ○○ミリ送り開始!」(車体がスライドする)といった具合に指令班が指示を出し、繰り返し呼称しながら慎重に進めていく。
このジャッキ作業が一番大変である。傾いて倒れないように水平状態を常に維持すべく、海側・山側同等の油圧をピストンに加えなくてはならない。更に油は温度変化に伴い粘性が変化する。ミリ単位での微量な調整が必要なのだ。遠くから見ていると車体が動いているのかどうか全く分からない。数ミリの調整を時間と争う中で行っていることに安全に対する絶対のこだわりを見た。感無量である。
そんな中、昼食時間となり、食事しながらの見学になってしまいなんとも申し訳がなく居心地が悪かった。
最後の挨拶で京急の原田社長が、JR北海道がレールの異常を放置していた問題に言及。「他社のことだから関係ないということでなく、自ら振り返って問題がないか学ぶべきだ。安全であり続けるためには地道な努力しかない。」と、社員に訴えていたのが印象深かった。
列車の遅れや運転見合わせ等乗客が苛立っている最中、事故現場ではこの訓練のように一秒でも早く列車を復旧させる為に、連携プレーが行われている。普段当たり前のように鉄道を利用しているが、その陰に作業員達の見えない努力があることを忘れてはならない。
※京急では東側を「海側」・西側を「山側」と呼んでいる。
鉄学概論 第21回:おもひであけぼの
今年の3月のダイヤ改正で寝台特急「あけぼの」が定期運行を終えて臨時扱いに。過去、臨時列車に格下げされた夜行列車の末路は…。そんな「あけぼの」が登場するスタジオジブリ「おもひでぽろぽろ」。
この映画を鉄目線で観てみる。
NYKNews Vol.42(2014年3月掲載)
1970年に臨時列車として登場し、後に定期列車に昇格した寝台特急「あけぼの」。
運行開始当初は、上野~福島~青森で、東北本線~奥羽本線という二路線のみの実にシンプルなルートだったが、現在は上野~高崎~宮内~新津~秋田~青森と、なんと高崎線~上越線~信越本線~羽越本線~奥羽本線と五つもの路線をはしごしている。
1990年になると山形新幹線「つばさ」の開通工事が始まり、当時臨時列車を含めて三本走っていた「あけぼの」は、三本とも別のルートに変更され山形駅を経由しなくなった。
つまり、「おもひでぽろぽろ」が公開された1991年当時、巡礼旅をしたくとも「あけぼの」では山形にいけなかったのである。
さて、「おもひでぽろぽろ」で描かれているのは1982年、「あけぼの」がまだ山形を経由していた頃である。
山形へ向かう主人公タエ子が乗車したのは上野発22時24分、山形着3時51分の「あけぼの5号」。上野駅の17番線に推進運転で入線するシーンで方向幕が青森行となっているが、たしか「あけぼの5号」は秋田止まりだったはず…、確認を要する。
客車は青い車体に白い帯の24系24形寝台車、ブルートレインだ。タエ子が乗った車両は七両目のB寝台三段式のオハネ24で、これは事実に沿った描写。最後部車両に電源車が接続されている。現在の電源車は青森側に付いているが、1990年までは上野側に電源車があったので、これも事実に沿っている。
走行シーンは、ED75系が描かれているので、交流電化区間になるために機関車を交換する黒磯駅より先であろう。山形駅入線のシーンではED78形とEF71形の重連が引いている。これは板谷峠の急勾配を越えるためでこれまた事実に沿った描写である。ここまで鉄道が考証されているとは感無量である。
こんなにリアルな描写をしていながら、ラストで仙山線高瀬駅から仙台へ向かうタエ子が乗ったのはこの路線では走っていなかったキハ52系である。山寺駅で引き返すタエ子が乗るのは実際に運行されていた455系であることから、演出上のこだわりであえて気動車を使ったと推察できる。
なぜあえて気動車なのか、演出意図を推し量るのも鉄ならではの一興である。(A)
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