第4回 山旅あれこれ(中央アルプス・富士山 編)
北アルプスと南アルプスに挟まれ伊那谷と木曽谷を東西に分ける中央部の深い谷と急峻な山脈が北から南に延びているのが中央アルプスである。
富士山、伊豆、丹沢山塊を併せて紹介する。
中央アルプスの秋
NYKNews Vol.22(2010年11月掲載)
▲恵那山(標高2190m)
中央アルプスの南端にあり、天照大神の胞衣(エナ)をこの山に収めたのでこの名が付いたと言われている。木曽路に聳えるこの山は、島崎藤村の〝夜明け前〟にもしばしば出てくる。半円状の地形は〝鍋づる〟の名称のとおりなだらかな山である。
▲空木岳(2864m)
ウツギダケと読み、標高とその名の美しさから選ばれている。山頂に残雪がある頃に山麓ではすでにウツギの花盛りで、その景色からの由来
でははないかと深田久弥は述べている。中央アルプスの南の主峰で、巨岩が散乱したような山頂である。
▲木曾駒ケ岳(2956m)
中央アルプスの最高峰。この山と相対して伊那谷を距てて真向いの南アルプスの駒ケ岳と区別するため中央アを木曽駒、南アを甲斐駒と称している。信仰の山で木曽谷側からの登山者は少なく、今では伊那谷側からロープウエイが通じ千畳敷まで手軽に登れる。
▲御岳(3063m)
木曽節で有名な御岳は、南・北・中央にも入らない独立峰で、今でも白装束姿の行列が続く信仰の山である。主峰の剣が峰を初め継子岳、魔利支天山、継母岳等が外輪山をなし、スケールの大きな均衡の取れた美しい山である。1979年の噴火は記憶に新しい。
▲天城山(1407m)
伊豆半島の中央部に位置する火山で、川端康成の〝伊豆の踊子〟で有名である。天城山とは、白田山の火口丘を中心に万二郎岳、万三郎岳、箒木山、三筋山を外輪山とする山の総称である。天城高原ゴルフ場から天城トンネルまでの縦走は歩き甲斐があった。
▲富士山(3776m)
典型的なコニーデ火山で、日本を象徴するこの山は、一夏に数万人の登山者で賑わい、老若男女を問わず一生に一度は目指す山であり、世界でも類をみない国民的な山である。深田久弥曰く:〝世界各国には名山は多くあるが、富士山ほど一国を代表して国民の精神的資産となった山はない〟。世界遺産登録はまだである。
▲丹沢山(1673m)
四季を通じて多くの登山者が訪れる丹沢山塊は、主峰の蛭ケ岳をはじめ塔ノ岳、桧洞丸が連なり、全体の立派さから選んだと深田久弥は述べている。中津川、玄倉川などが深く入り込んだ地形と樹林が変化に富んだ山にしている。
▲八ヶ岳(2899m)
八つの峰からその名が付いたと言われ、主峰の赤岳を中心に2800mを超える標高は、富士山、日本アルプス以外にはなく、岩稜とガレキのアルプス的な山容である。冬山登山の入門の山でもあり、高山植物の宝庫でもある。広い裾野が車窓から楽しめる。
▲蓼科山(2530m)
諏訪富士とも言われ諏訪側からは美しい円錐形が望める。八ヶ岳の北端に位置する独立峰で山頂部は岩石を積んだような山で、裾野は森林に覆われ立科高原が広がる。
*参考文献
日本百名山:深田久弥、(株)新潮社 昭和39年発行
日本百名山・登山ガイド:(株)山と渓谷社 '92年9月10日初版第1刷
第5回 山旅あれこれ(北アルプス編 その一)
北アルプスは多くの人が写真や絵で見たことのある山々が多い。3000m級を初め個性のある山から、登るより遊べる山として気軽に行ける百名山を紹介する。
槍ヶ岳
NYKNews Vol.23(2011年1月掲載)
▲霧ガ峰(標高1925m)
車山を最高峰とする高原状の山である。豊かな地に大小の湖沼や湿原が点在する溶岩台地で、緩やかな傾斜をのんびり登っていけば山頂に着く。深田久弥曰く、登る山ではなく遊ぶ山である。高原にはビーナスラインが通り大勢の観光客で賑わう。
▲美ヶ原(2034m)
標高2000m前後の高原大地は高さと広さで日本一といわれる。シンボルの美しの塔を初め、北アルプスを背に牛が放牧されている風景はアルプスを思わせる。槍、穂高の豪快な山容を鑑賞するのにもっとも適した位置にあり、マイカーで簡単に登れる観光地である。
▲乗鞍岳(3026m)
最高峰の剣が峰を初め、大日岳、摩利支天岳など22の峰の総称である。火口湖が点在し頂上近くまでドライブウエイが通り3000m峰を手軽に登ることができる。頂上を極めるだけでは物足りない人はバス道を外れ湖沼や森林、高原の散策で山の楽しさを見出せる。
▲焼岳(2458m)
今でも山頂付近から噴煙を上げ、数ある北アルプスの中で唯一の活火山である。上高地へ向かって釜トンネルを抜けると眼前に複雑な岩の山容が聳えたっている。山頂付近まで登山可能であるが、噴火活動の状況で規制されるので事前確認が必要である。
▲笠ガ岳(2898m)
北アルプスの山塊から少し外れているので単独峰の感があるが、蒲田川を介して聳える穂高連峰や槍ヶ岳に隠れ地味な存在である。何処から見ても〝笠〟の形をくずさない端正な姿と、古くから信仰の山で、登山道を開いた播隆上人ゆかりの山である。
▲常念岳(2857m)
安曇野の西に優雅な三角錘の姿で聳え、梓川を隔てて連なる槍ヶ岳や穂高岳を山頂からの眺望はすばらしい。常念岳はその山だけでなく山麓の風景と一体となった美しさが芸術家達にも親しまれている。常念小屋の冷えたジョッキに生ビールは夏場の名物である。
▲穂高岳(3190m)
日本第3位の標高を誇る奥穂高岳を初め、前穂、北穂、涸沢岳など3000m峰が連なるスケールの大きな連峰の最高峰。気高い岩峰群は幸田露伴の一文にも著されている。山好きの聖地とも言われ我が国アルピニズム発祥の地でもある。
▲槍ヶ岳(3180m)
何処から見ても天を指す鋭い三角錐は一目でそれと分かる、我が国の山の中でも最もユニークな存在である。日本の山でも穂高連峰とともに人気があり、岩にへばりつくようにして登る山頂は登攀意欲をかきたてる。笠が岳を拓いた播隆上人が初登頂者である。
*参考文献
日本百名山:深田久弥、(株)新潮社 昭和39年発行
日本百名山・登山ガイド:(株)山と渓谷社 '92年9月10日初版第1刷
第6回 山旅あれこれ(北アルプス編 その二)
百名山の紹介も今回で丁度半ばの50座になり、北アルプスでも奥深い名山の数々を紹介する。
薬師岳
NYKNews Vol.24(2011年3月掲載)
▲鷲羽岳(2924m)
黒部川源流の山で、山名の歴史は諸説あるが、三俣蓮華岳から眺めると、鷲が羽ばたいているように見えることからその名が付いたと言われる。裏銀座縦走路にあって高山植物と展望の山旅が楽しめる。
▲黒岳(水晶岳)(2978m)多くの山は山頂から見ると、平野か耕地など人気を感じるものが見えるが黒岳からの眺めは周囲全て山であり、北アルプスのど真ん中に聳えている。烏帽子岳~三俣蓮華岳へ続く裏銀座縦走路からやや離れているため静けさが保たれている。
▲黒部五郎岳(2840m)
黒部にある岩場(ゴーロ)からその名が付いた。山頂部の大きなカールが特徴で太郎兵衛平から北ノ俣岳を経て黒部五郎岳へのコースは、登山者も少なくお花畑と展望のよい静かな山旅を楽しめる。独立峰のように北アルプスの連山から少し離れて位置している。
▲薬師岳(2926m)
北アルプスのほぼ中央にあり、重量感のあるどっしりした山容が特徴である。深田久弥は 〝この厖大な山は、行けども行けども頂上はなおその先にあった〟と著している。山頂から四方におおらかな尾根を延ばし、どこから登っても数日必要である。
▲立山(3015m)
古くから信仰登山の山で、大伴家持が〝万葉集〟にこの山にちなんだ歌を残している。特徴的な台形の山頂の右に雄山、中央に突き出た最高峰の大汝山、左に富士ノ折立、この三山の総称が立山である。今も山頂部に雄山神社と祠があり、霊山の雰囲気が漂う。
▲剣岳(3003m)
映画〝点の記〟で一躍有名になった。〝明治の終わりに苦難の末に測量部の一行が初登頂したと思われたが、山頂には槍の穂先と錫杖の一部が残されていた〟場面が印象的であった。北アルプス北部で揺るぎ無いその山容は見る者を圧倒しており、他が雪で覆われても剣岳だけは黒々した岩稜を現している。
▲鹿島槍ヶ岳(2890m)
一般に後立山連峰と呼ばれる中心部に五竜岳と共に存在感を争う。信州側から見た北峰と南峰の双耳峰を結ぶ緩やかな美しい吊尾根が特徴である。山麓の部落からその名が付いたが、後立山縦走という言葉も明治末期から多くの人が登るようになってからである。
▲五竜岳(2814m)
鹿島槍ヶ岳と共に後立山連峰の核心部にあって大地にしっかり根を下ろした実に堂々とした山である。八峰キレットから鹿島槍への縦走ルートは難関であったが、今は整備され縦走路のポイントでもある。
▲白馬岳(2933m)
大雪渓と花の名山として魅力に富んだ山で、山小屋も多くあり比較的登りやすいため人気がある。白馬岳から南にある杓子岳、鑓ヶ岳と共に白馬三山と呼ばれる。日本アルプスの登竜門として好適な山であり、槍ヶ岳と共に北アルプスで最も賑わう。
*参考文献
日本百名山:深田久弥、(株)新潮社 昭和39年発行
日本百名山・登山ガイド:(株)山と渓谷社 '92年9月10日初版第1刷
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