特集 第31回 プライド
プロとしての責任と誇り。
NYKNews Vol.31(2012年5月掲載)
娘がこの春大学生になり、家を出ることになりました。いつまでも手の中にいる雛鳥だとばかり思っていましたのに、彼女自身の人生という大空へ羽ばたいていきました。
ということで、大学の合格発表から入学式までの短い春休みは、その準備に追われました。
まず、携帯電話屋さんへ。娘の通っていた高校は、携帯電話の所持を禁止していましたので、携帯電話を持つのは三年振り。
新学期を迎えるこの時期は学生割引をうたっているところが多いようですが、オプション代や機種代が別途かかるなど複雑極まりなく。また、家族の携帯電話との兼ね合いなど様々な疑問が次から次へ沸き。
対応してくれたサービスカウンターの若い女性は、それらの質問を受けながらパソコンで現在の契約状況などを手際よく検索し、丁寧に説明してくれました。
それでも私にはなかなか難しく質問を重ねましたが、どんな問いも的確にその内容を汲み取り即座に回答する、打てば響く才気には感心するばかり。方針が決まるまで相当の時間を要しましたが、その間女性は始終ニコニコ感じが良く、おかげで納得のいく選択ができました。
私から見れば娘とさほど変わらない年頃のその女性は、社会人としての責任とプライドをまとっているように感じ、娘にもこんな社会人になってほしいと思いました。
さて、次は眼鏡屋さんです。今かけている眼鏡では入学試験の時黒板に書かれた訂正が見えなかったそうで、大学の講義に差し支えてはと新調することにしました。
家の近くには低価格の眼鏡屋さんが数軒あり、時間も限られているのでそこで済まそうかとも思いましたが、少し遠いいつもの眼鏡屋さんに向かいました。
その眼鏡屋さんは二十年ほど前たまたま入った店なのですが、Mさんという店員さんの技術と接客の質の高さに惹かれて長いお付き合いになりました。
Mさんが調整すると、眼鏡は羽のように雲のように軽く、かけているのを忘れてしまうほど。眼鏡をはずしたあとの鼻当ての跡さえ気になりません。
Mさんは一度調整したあと、もう一度眼鏡の遊び具合耳の当たり具合などを丁寧に確認し、再び調整。そして「これで大丈夫だと思います」Mさんがニッコリ笑うと、フワッと軽いかけ心地の出来上がり。その笑顔はプロとしての自信と誇りに満ち溢れています。こんなMさんだからこそ検眼も安心してお任せできますし、フレームやレンズの品質も間違いないと思われ、やはり今回もMさんにお願いして良かったなと思いました。
こうして慌ただしく支度を整え、娘は遅い桜の開花の頃「あったかくしてね。ちゃんと食べてね」そんな普遍の応援歌に見送られ、瞳を輝かせて元気に巣立っていきました。
特集 第32回 良品の条件
真摯に。誠実に。
極上のものづくり。
NYKNews Vol.32(2012年7月掲載)
少し前から、車のエアコンが効かなくなりました。暑い日は窓を開けて走ればよいのですが、困るのは雨の日。窓ガラスが曇ってとても危険です。普通でしたらすぐ修理するところですが、私の車はもうすぐ十年。エアコンも、修理というより買い換えの時期かもしれません。
車のエアコンというのはいくらぐらいするのだろう。替えたところで車はあとどれくらい乗れるのだろうか。そんなことを考え一日延ばしにしていましたが、半年点検を兼ねてディーラーに見てもらうことにしました。
車はまだまだ快調に走る。エアコンの修理ができなかったら、やはり新しい物に付け替えるべきかなどと思っていると、担当の営業の方から電話が。「部品を交換すれば大丈夫そうです」。
部品はその日のうちに取り寄せられ、エアコンはまた快適に効くようになりました。早速その夕方、出先で激しいにわか雨にみまわれましたが、フロントガラスは曇ることなく、おかげで無事に帰宅することができました。
電化製品は壊れる時は何故か一度にいくつも壊れるものですが、その前日は洗濯機の修理でした。
脱水の時に、バタバタバタバタと近くにヘリコプターでも停まっているようなものすごい音がするようになったため修理を依頼したのですが、修理の人が操作しても症状が出ず、原因が特定できませんでした。
「何年ぐらいお使いですか?」と問われ「七年です」と答えると、やはり、というように頷き「洗濯機の寿命は七年ぐらいです。もしかしたらモーターの交換が必要なのかもしれませんが、予想で交換してもまた別の所に不具合が出るかもしれません」とのこと。そして、あちこちはずして点検し「底のネジがゆるんでいるようなのでそれを絞めます。これが原因だったらよいのですが、それでももしまたすぐにゆるむようでしたら、新しい洗濯機を探した方がいいかもしれませんね」とのことでした。男性の見立て通り、ネジがきつく絞められると、洗濯機はまた静かに動くようになりました。
物である以上、いつかは壊れるのは仕方がないこと。しかし、できるだけ永く使いたいものです。
長く生活していると、おのずと品質の良い長持ちする製品をつくるメーカーがわかります。また、そういった真摯なものづくりをするメーカーは、その企業の窓口になる人も、実際修理をしてくれる人も誠実な仕事をするものだとなと、いつも感心させられます。
車も洗濯機も、そう遠くないうちに次のものを考えなければならなくなるかもしれません。その時は、やはり長持ちする良品をつくり、アフターサービスも信頼のできるいつものメーカーのものにしようと思っています。
特集 第33回 付加価値
確かな品質に、さらなる価値を添えて。
NYKNews Vol.33(2012年9月掲載)
息子とふたりきりの夏休みのある日、電車に乗って近くのショッピングモールに行きました。
小学4年生の息子のお目当ては、レゴショップ。その店はさほど大きくなく、品数も少なめなのですが、彼にとってはワンダーランド。陳列されたパッケージをじっと見つめる背中からは、高鳴る鼓動が聞こえてきそう。
まだまだ見ていたいと言う息子をそこに残しショッピングモールを一巡して戻ると、息子は先程の場所から一ミリと動いておらず、よほど心が奪われているよう。
いつも「見るだけ」の約束で訪れるショップですが、夏休みだし…と「お小遣い持ってきてるの?」と声をかけると「うん!」と財布をカバンから出しました。百円玉、十円玉…合わせて千七百六十余円。欲しい商品は千六百九十円なのでちょうど買えるものの、小学4年生がお小遣いで買うには少し高いかなと思い、同じロボットのシリーズのほどほどの価格のものを「このあたりのはどう?」と促すと「この中ではこれかなあ」と手にするも肩がションボリ。
それで「一番欲しいのはどれ?」と再度聞いてみると、すかさず「これ!欲しかった関節パーツが六つも入ってるんだ」と先程のものを胸に抱える息子。大事に貯めたお小遣いで買うのだから一番欲しいものがいいかと「じゃあ、それがいいね」と言うと「お母さん、ありがとう!ありがとう!ありがとう!」と嬉しそうに繰り返し、レジに向かいました。
レジの順番をしばらく待ち、いよいよ息子の番。カウンターの上で財布を引っくり返して硬貨を並べ、百円、二百円…と子どもらしいたどたどしい指先で数え始めました。
後ろに誰も並んでいなかったもののお店の人に悪いかなと「すみません」と謝ると、店員さんは「いいえェ」とにっこり笑い「かえって助かります。ちょうど細かいお金が少なくなっていたので」…。
その言葉は、一生懸命硬貨を数えていた息子とそれを少々焦りながら見守っていた母親にとって思いやり溢れるものでした。思わず「優しいお姉さんで良かったです」とお礼を言うと「いえ、本当なんですよ」とまたにっこり。
そうこうしてるうちに数え終わり、息子はとても満ち足りた様子で店員さんからロゴ入りの袋を受け取ることができました。
帰りの電車の中で「いいお姉さんで良かったね」と声をかけると「本当は違かったんだろうね」。息子も店員さんの優しい気遣いに気付いていたよう。欲しかったものを手に入れた以上の価値のある買い物になりました。
家に帰ると息子は早速組み立て始めました。そして、あっという間に完成したかと思うと、今度は持っているパーツを組み合わせて次から次へとカスタマイズ。無限のイマジネーションに感心しながらあの時の店員さんの笑顔と心遣いを思い出し、私にまで夏の良い思い出をプレゼントしてくれたことに感謝したのでした。
特集 第34回~第36回
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