特集 第25回 言葉の花束
宝石のような言葉たちを花束にして。
NYKNews Vol.25(2011年5月掲載)
数年前のことですが、珍しく体調を崩し入院することになりました。入院自体は一週間程度の短いものでしたが、当時三歳だった末の息子のことを思うと胸が痛みました。
でも、ちゃんと伝えなければ、と入院が間近に迫ったある日、息子を抱きよせ、ぷっくりした小さな手をとり、指折り数えながら話しました。
「月火水木金土日ぐらいになったら帰ってくるからね。おじいちゃんとおばあちゃんが来てくれるからね」
息子は神妙な顔でじっと聞いていましたが、話が終わると心配そうに私を見つめながらこう言いました。
「ボクは大丈夫だよ。お母さんはひとりで大丈夫?」
私の方がギューッと抱きしめられたかのようでした。まだ生まれたての心で考えた、ありったけの母への思い…。
約束通り一週間で家に帰ることができましたが、その言葉は私の宝物。思い出すだけで、周りのもの全てが愛しく思える魔法の言葉です。
言葉には、すごい力があるなと思います。
私がまだ新米母だった頃、初めての赤ん坊を抱え、知らない土地で毎日緊張の糸をピンと張りつめていました。
ある日、娘を抱いて出掛けた先で、見知らぬ人々から「可愛い」「可愛いね」と声をかけられました。すると、近くにいたご婦人がにっこりと「赤ちゃんも可愛いけど、お母さんも可愛いわねェ」…。
その時、心がほろほろほろほろ溶けていくのを感じました。
私に声をかけて下さったこと!私を褒めて下さったこと!嬉しくて嬉しくて嬉しくて!!
世界がパーッと明るくなりました。そして、私もそのご婦人のような素敵な女性になりたいと思ったのでした。
また、言葉の力に感謝することもあります。
散歩が大好きな、九十を越えた祖母。散歩の途中で腰掛けて休んでいたところ、自転車に乗った高校生が「ばあちゃん、頑張れよお!」と声をかけてくれたと、それはそれは嬉しそうに顔をクシャクシャにして話してくれました。
祖母はその後ろ姿に「ありがとう!」と言ったそうですが、私も彼にお礼を言いたい。
「あなたの優しさのおかげで、おばあちゃんは今日も元気です!」
沢山の優しさに包まれて、私もいつの間にかベテランお母さんと呼ばれるようになりました。
街で赤ちゃんを見掛けると、私は傍らの小さなおねえちゃんにこう話しかけます。
「赤ちゃんも可愛いけど、おねえちゃんとっても可愛いね」
ピッカピカの笑顔が返ってきます。
特集 第26回 一期一会
一度きりのかけがえのない出逢いに。
NYKNews Vol.26(2011年7月掲載)
今年は小学校の役員に手を挙げ、広報部の一員として活動しています。
広報部というのは、学校の行事や子どもたちの表情をまとめた広報紙を、年に三回、学期ごとに発行するというもの。
一学期は気候も良いので、ウォークラリー、田植えなど校外での行事や授業が多く、そのたびに同行取材。日頃は日傘派の私ですが、屋外での活動にはやはり帽子が必要と思っていたところ、あるデパートから「友の会」のお知らせが届きました。
友の会初日、デパートは華やかに賑わい、帽子売り場にも季節柄大勢の人が訪れていました。
夏らしい、軽やかで涼しげな帽子がズラリと並んでいましたが、その中のひとつに吸い寄せられるように目がとまり、そっと頭にのせました。
柔らかいのに張りのある生地でふんわり軽く、日除けのつばもたっぷり。さりげないリボンも可愛らしく「これにしよう」と即決したものの、値札を見るとかなりの予算オーバー。
他のものも試してみましたがしっくりするものはなく、別の売り場を見たりしていました。しかし、先程のあの帽子が気になって仕方ありません。
ちょっと被ってみるだけ、と再び帽子売り場に戻りました。
やっぱりこれがいいなあと、なかなか手から離すことができず、さりとて決断もできずにいると「よくお似合いですよ」と傍らから優しい声。その声の方を見ると、そこには少し小柄な、そして、とても上品なご婦人が微笑んでいました。
「ありがとうございます。でも、お高いんですよ」と諦めようと思っていることを打ち明けると「とってもお似合いなのに…。ちょっと見せていただいてもよろしい?」と帽子を大事そうに手に取り「良い色ですし、素材も良いですね。長く生きてきていろいろお買い物をしてわかったのですが、良いものはお値段は張りますね。お値段は張りますけれど、質の良いものは長持ちしますしね、結局かえってお得なんですよね」
そのご婦人も帽子を求めて来たけれど、気に入ったものが見つからないと少し淋しげな様子。
「なかなか気に入ったものには出会えないものですよ。余計なおしゃべりをいたしました」と会釈し、ご婦人はその場をすっと離れました。
素敵なご婦人との出逢いに背中を押され、会計のカウンターに向かいました。
「やっぱりあの帽子にしました!」そう報告したくて、すぐに先程の売り場に戻りましたが、ご婦人の姿はそこにはもうありませんでした。
日射しがどんどん強くなり、帽子は大活躍。やはりこれに決めて良かったな、と帽子に触れるたび、あの穏やかで楽しかったひと時を思い出すのです。
特集 第27回 信頼を繋ぐ
信頼を繋ぎ
明日へ繋ぐ。
NYKNews Vol.27(2011年9月掲載)
家を建てこの地に越してきてから十二年。同じ頃に建てられた近所の家々では、外壁の塗り直しの工事があちらこちらで始まりました。
それらを見ながら、わが家もだんだん様々なメンテナンスが必要になってくるのだろうなあと思った矢先、外出先から戻ると鍵がクルクル回って開かなくなるということがありました。
その時はなんとか開けて家に入ることができたものの、いつまた開かなくなるかと不安になり、鍵も交換する時期がきたのだろうかと思いましたが、どこの鍵屋さんに頼めばよいのかわかりません。
どうしたものかと思いながらも、その後もとりあえず鍵の開け閉めはできていたので、しばらくそのままにしていました。
しかし、この夏は早くから猛暑が続き、炎天下子どもが家に入れないようなことがあっては大変!とやはり鍵を換えることにしました。
前にもお話したことがありますが、私の家を建てた工務店の現場監督さんは、家の引き渡しのあとも何かにつけすぐに来てくれて、そのたびに誠実かつ丁寧に対処してくれていました。
以前なら、今回のような時は迷わずその監督さんに相談していたのですが、数年前に退職しその工務店にはもういません。
それでもその工務店を通してお願いするのが一番安心かなと思い、電話しました。
すると「鍵屋さんをご紹介いたしますので、お客さまから直接お電話して下さい」と提携している鍵屋さんの名前と電話番号を告げられました。
すぐにその番号に電話をかけ名前を名乗ると「○○(工務店)さんからお電話をいただいています」とのこと。工務店の責任ある素早い対応に好感を持ちました。
鍵屋さんは、早速その日の夕方来てくれました。
「十年も使っていると、鍵も磨耗してくるんです。この状態ですと、開かなくなる日が来るのも時間の問題だったかもしれません」とのことでした。
鍵はすぐに新しいものに交換されました。ドアの不具合も調整してくれた上、合鍵が欲しい旨を伝えると、店舗が離れているにもかかわらず、すぐさま店に戻り合鍵を作って届けてくれました。
こうして再び家の安心と安全を手に入れることができました。
鍵の交換の仲介などという、工務店にとってはとても小さく、ともすれば煩わしい仕事かもしれないのに、お客さまとして大切に扱われ、迅速に対応してくれたことに感激しました。そして、信頼できる職人さんと繋がりがあるということにも。
これからの家のメンテナンスは、やはりこの工務店にお願いしようと思ったのでした。
特集 第28回~第30回
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